遊園地のディドリーム (10)
「じゃあ、いこう。歩いていれば、きっとみつかる」
 私はにこっと微笑んで、くるみちゃんと手をつないで歩き出す。
 つないだ手が暖かい。
 それだけの事に、なんだか胸がいっぱいになる。
 くるみちゃんと、ずっと一緒にいたい。
 どうして。
 どうしてそれだけの事が叶わない。叶えてはいけないのだろう。
 私は再び胸が苦しくなる。
 だから。
 つないだ手をぎゅっと握りしめて、私はただこの刹那を感じていた。
 誰にも邪魔されないように。
「うん。菜摘お姉ちゃん」
 くるみちゃんはそっと笑う。
 楽しい事を探しているくるみちゃんと私。運命だとか安っぽく浸るつもりはないけども。
それでも二人出会えた事にもしも意味があるなら。
 私はそれを探したい。
 誰よりも大切なもの。何よりも大事な思いをくれる彼女の為に。
 くるみちゃんにしてあげられる事。
 私は、何でもしてあげたい。
 何をしてあげればいいのか。いまもわからないけど。
 遊園地の中を歩く。でも、それだけでも楽しいかもしれない。
 くるみちゃんと一緒なら。
 そう思っていた時だった。
「おや。眠り姫が今日は散歩か」
 不意に呟きがきこえてくる。たぶんほんとにささやかな言葉だったと思う。
 気付かれないくらいに視線を送る。
 ピーターパンの姿をしたお姉さんが、こちらを見ていた。たぶん聞こえるとは思ってい
なかっただろう。
 遊園地の喧噪の中だ。よほど耳がよくなければ聞こえない。
 でも、私には力があるから。人の感情を読みとる力。だから、気持ちの籠もった声はこ
うして時々きこえてしまう。
「珍しいな。私服だし。何か心境の変化でもあったかな」
 声はまだ聞こえてくる。
 もしかしたら、もうこの言葉は声にしていなかったかもしれない。
 でも、激しく感じ取ってしまった。
 嫌な感情は含まれていない。
 でも、それでも私は辛く感じていた。
 好奇の目で見られるのが、辛い。
 どうして、そっとしておいてくれないのだろう。一人でじっとしてる事が、そんなにお
かしい事かな。
 ……おかしい事だよね。やっぱり。
 逆の立場だったら、私だって気になると思う。むしろ変な目で見られていないだけ、ずっ
といい。
 それでも、こうして感じ取ってしまうのは辛い。
 なんでこんな力があるんだろう。
 私にこんな力がなければ、もっといろんな人と友達になれたのかもしれない。
 でも、この力があったから。くるみちゃんと友達になれた。
 いい事も、悪い事も。
 いろんな事を含んでいる。
 そして、和希くん。
 なぜだろう。不思議な人だなって思う。
 初めは彼も私のように心を感じ取れるのかと思っていた。
 でもそういう訳ではなくて。
 彼はちょっと変わってるけど、普通の人だと思う。
 なのに、どうして。
 答えはでない。
 でも何かが動き出しているんだと思う。
 それはもうずっと止まっていた時間なのか。それとも新しい未来なのか。私にはわから
ないけども。
 何かが動き出して始まっている。
 そう思うと、わくわくする気持ちも。そして胸が締め付けられるような切ない気持ちも
同時に思い浮かぶ。
 どうしてかはわかっている。これから何が起きるのかも。
 たぶん、それを知っているのは私だけ。
 そのカギとなっている和希くんも、結宮さんも。くるみちゃん自身も。きっと気付いて
いないだろう。
 これから始まる事。
 楽しくて嬉しくて。そして切ない、悲しい時間。
 クリスマスがもうすぐ近付いている。
 それまでにはきっとわかるかな。
 聖なる夜。
 その時には、きっと奇跡が起こるって私は信じている。
 幸せになれるかな。
 幸せになってくれたらいいな。
 たとえばクリスマス・キャロルのように。クリスマスの精霊がプレゼントをくばりまくっ
てハッピーエンド。
 そんな風になればいいなって思ってる。
 ばかみたいかな、私。夢みすぎなんだよね。
 だからこんな力があるのだろうか。人の心がわかる力。
 でもこの程度でよかったと思う。もしもはっきりと相手の思っている事がわかったなら。
 きっと、辛いと思うから。
「あ。」
 私は軽く呟いていた。
 目の前に見えたのは、いわゆるコーヒーカップという奴。
「ね。くるみちゃん、あれにのらない?」
「ふわー。ボクと、あれに?」
 くるみちゃんが驚いた顔で応える。
 それはそうだろうな。きっと。
 遊園地にずっといても、いちどだってのった事がないはずだから。
 でも、だからこそ。
 経験してほしいなって思う。遊園地は、楽しいはずの場所だから。
 私でも、あげられるはずだから。楽しさを。
 さっきから思ってる事がちぐはぐだなって、ちょっと思う。
 気持ちがずいぶんゆらゆらと動いているのは、人の思いに当てられたからだろうか。
 でも、今のこの気持ちは悪くないなって私は思う。
 年間フリーパスがあるから、どれにだって好きなだけのれる。今まで一度も乗り物には
のったことなかったけど。
 行列に並んで、それからチケットをみせる。そのすぐ後にくるみちゃんがついてきてい
た。
 前のコーヒーカップが止まって終わりのベルが鳴る。
 前のお客さん達が降りていって、いよいよゲートが開く。
「いこっ、くるみちゃん」
「う、うん」
 くるみちゃんは一瞬ためらうけども、すぐに私についてくる。やっぱり可愛いな。くる
みちゃん。
 笑っていて欲しい。
 くるみちゃんに笑っていてほしい。
 それを叶えられる人は、たぶん一人だけだけど。でも少しでも私は力づけてあげられた
ら、いいなって思ってる。
 コーヒーカップに乗り込む。
 と、はたと気が付いた。そういえば私もこういう乗り物って殆どのったことないなぁ、
と。
 えっと確かこの真ん中のを回すと、コーヒーカップも回るんだよね。どれくらい回せば
いいものだろう。
 とりあえず一生懸命がんばってみればいいかな。
「ふわー。あ、そろそろ動くよ」
 るるるるるー、と締め切りのベルがなって、ばたんっと音をたてて入り口の柵が閉めら
れる。
「えっと。これを回すと回るんだよ。じゃあ、がんばってみよ」
「うん。がんばるちゃーっ」
 そうして私とくるみちゃんの二人は、思いっきりカップの真ん中の輪を回し初めていた。
 勢いよく勢いよく勢いよく。
 ……うわーっ。目が回るよ。三半規管が耳から吹き出そう。
 こ、こんなに激しい乗り物だったんだ、これ。
 ……って、周りの人。こんなに回してない。な、なんかおかしいと思ったんだ。私。
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