鏡の国に戦慄を (06)
「よし。まだ魔物はきていないみたいだね。ただ他に防衛任務についてそうなそうなパー
ティもいないのが気になりはするけれど」
 聖は銃を身構えたまま、辺りを見回してみる。
 目の前にそびえたつ塔は、本当に大きい。さすがに日本を代表するタワーだ。
「けどこんだけ大きいんじゃ、俺らだけじゃ防ぎきれないぜ。気が付かないうちに裏から
やられるかもしれねー」
「他に誰か手助けがあればいいけど、不気味なくらいに他に人が……功っ、敵がきたっ」
 聖は話の途中で、急激に振り返る。いま功達が登ってきた坂道を、豚もどきが数匹あがっ
てきている。
「また豚さん達かよっ。こいつらうぜえんだよな」
 功は刀を手にして襲撃に備える。
 本来であれば先に攻撃してしまいたいところだが、豚もどきにはリンク能力がある。下
手に手出しをすれば、余計に危険な事になりかねない。
 聖もそれゆえに銃を手にしたまま立ち止まっている。出来るだけ近くまで引き寄せて、
一網打尽にするつもりなのだろう。
 だが豚もどきが十分に近づいてくる前に、突如聖は銃撃を放っていた。
 バンッと鈍い音が響く。
 だが狙ったのは、豚もどきではない。
 いつの間にか上空に羽根のついた鬼が迫ってきている。
「っち。有翼鬼まできやがったかっ」
 しかし鬼はかなりの上空に浮かび上がっている。
 功には刀しか武器がない。その為、あまりに上空に浮かんでいる相手には手出しする方
法がなかった。
 普段であれば敵も攻撃が届かない為。さほど気にする事もないが、タワーは文字通り大
きい。上空で魔物に破壊されてしまえば、それでミッション失敗になってしまう。
 その為、銃をもつ聖が鬼を狙ったのだろう。だがそうすると、功一人では豚もどきがリ
ンクを始める前に倒す事は難しくなってしまう。
「仕方ねぇな。なら近寄る前に先にやるっきゃねぇっ」
 功は刀を身構えると、そのまま豚もどきへと向かって駆け寄っていく。
 どうやら五匹いるらしい豚もどきの一匹に対して、思い切り剣を振るう。
 ざんっと鈍い音がして豚もどきが姿を消した。
 だが当然他の豚もどきが功へと迫ってくる。手にした棍棒を功へと向かってふりおろし
た。
「やられてたまるかっ」
 功は叫びながら、思い切り左側に体をひねる。その脇で棍棒が風を切る音が響いた。
 だが豚もどきの数は多い。別の豚もどきが、飛んだ先に向かってなぎ払うように棍棒を
振るう。
「かぁっ!」
 気合いの一吠と共に、刀にて棍棒を受け取る。
 豚もどきの棍棒をそのままはじき飛ばすと、功は後方へと一度ステップする。
 目の前にさらに別の豚もどきの棍棒が叩きこまれる。だがすでにその位置には功の姿は
ない。
「ぶぉぉぉぉぉっん」
 しかし豚もどきの叫びがあがってしまう。
 この声はさらに近くにいた魔物達を呼び寄せてくる。
「ちぃっ」
 目の前に迫る豚もどきへと刀を突き出す。
 胸の辺りを一突きされ、豚もどきの一匹が消える。
 だがいつのまにか、そのすぐ後ろに巨大な剣を持った真っ赤な鎧を着た騎士の姿がある。
だがその目は真っ赤に光り、それが人ではない事を確かに表していた。このゲームでグレ
ートソードマンと呼ばれている魔物だ。
「げ。赤グレがでてきやがったかっ」
 呟く功の声に明らかに緊張が含まれていた。
 豚もどきは数は多いが、一匹一匹はそれほど強くはない。それさえ気をつけて戦えば、
そう恐ろしい敵ではなかった。
 だがグレートソードマンは違う。プレイヤーの中では赤グレと略されて呼ばれている魔
物は、見た目通り攻撃力も防御力も高い。豚もどきのように一撃で倒せる魔物ではない。
「ち。あいつに気をつけながら、まずは豚もどきをやっつけるしかないか。聖っ、そっち
はどうだっ」
 功の背中側で戦っているはずの聖へと声をかける。
 時折、銃声が響いてきていたから、聖も戦っているだろう事はわかった。だが有翼鬼も
かなりの数が近づいてきていたから、そう簡単には片づかないだろう。
「なんとか防衛しているけど、このままじゃやばいね。ときどきタワーにとりつかれてし
まっている」
「まじかよっ」
 聖の答えに驚きの声をあげる。
 タワーにとりついていると言う事は、破壊活動をされそうになっていると言う事だ。東
京タワーの防衛が目的である以上、傷つけられる訳にはいかない。
「くそ。あれだけ高いとこめにいる敵には聖しか戦えねぇ。聖一人じゃ、いつかはやられ
る」
 言いながらも功は豚もどきへと刀を振るう。
 豚もどきは避けきれず、また一匹姿を消していた。
「あと……三匹かっ。東京タワーなんていうどでかい建物の防衛なんて、なしだろがよっ」
 文句を言いながらも、功は前方へと思い切り飛び込む。
 いつの間にか功のすぐ後から豚もどきが迫っていた。さきほどまで功がいた位置に棍棒
が振り下ろされる。
 豚もどきの数も残り三匹まで減っていたが、またいつ仲間を呼び出さないとも限らない。
 すでにある程度魔物が集まっていたせいか、寄ってきたのは赤グレだけだったがその一
匹が強敵だ。これを倒さない限り、聖の助けにはいけない。
 その赤グレが突如、足を速めて功へと突進する。
「かぁっ。くるかよっ」
 功は叫びを上げながら、刀をもう一度前へと構えた。
 重そうな金属鎧に身を重ねているにも関わらず、赤グレは速い。まるで怒りに我を忘れ
た猛牛のように、音を響かせながら赤グレが迫る。
 その巨大な剣をまるで重さを感じさせずに思い切り功へと打ち付ける。
 功は刀を真横に身構えて、上空へと掲げていた。
 がんっと鈍い音が響いて、功の刀が赤グレの剣を受け止める。
「ぐぅっ。やられてたまるかっ」
 功の刀にかなりの力がかけられるが、だが功も思い切り力を入れる。
 功の足元がぴくぴくと震えていた。赤グレの力は相当なもので、少しずつ掲げた刀が押
し切られていく。
「や、やば」
 思わず声を漏らすが、しかし力では敵いそうもない。だがそれだけでなく、豚もどきが
すぐ近くに迫ってきていた。
 豚もどきの棍棒が大きく右手側へと引きこんでいた。そのまま功をなぎ倒そうというの
だろう。
 だが今の功は身動き一つとれない。下手な動き方をすれば、赤グレの巨大な剣にやられ
てしまうだろう。
 避けられない。功は思わず目をつむって痛みに備えた。
 その瞬間だった。
「破邪~光! 火球の舞、レベル5っ」
 不意に声が聞こえた。同時に何かがはじけ飛ぶような音が響く。
「ふふんっ。私だって豚もどきくらいなら、倒せるんだからねっ」
 そしてすぐに聞き慣れた声が伝わってきていた。
 目を開けると、赤グレの向こう側に七瀬の姿が見える。
「お、天文娘かっ。さんきゅっ」
「天文ってゆーなっ。そんな事いうなら、今からあんたの方に火球をなげつけるからねっ」
 七瀬はむっとした顔で、杖を身構えていた。この状況でも天然を超した存在、天文の異
名を持つ七瀬ならば本気でやりかねない。
「わかったっ。わかったから聖の奴を助けてやってくれないか」
 慌てて叫ぶと、七瀬は一瞬きょとんとした顔をみせたが、すぐにしょうかないなーと呟
いて笑みを覗かせた。
「私に任せといてっ」
 七瀬はそういって胸をどんと叩く。
 なんとなく不安な気もしたが、七瀬の術ならば上空にいる敵でも戦う事が出来る。聖を
助けてやる事が出来るはずだった。
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