僕まほ2「昨日の夢を見つけたら」 (22)
「さて。ならば、俺っちは君達の相手という事だね」
 十六夜が静かに告げる。
 綾音と冴人が、咲穂と黒蛇真教の男が。それぞれ対峙していた。
 残るは、十六夜と。洋と結愛のコンビ。
 やれるのか。洋の中で何度か反芻する。
「なんで、こんな事するんだ? 黒蛇真教とやらに荷担した訳でもないみたいだな。なぜ、
あんなものを呼び出したんだ!?」
 洋はぎゅっと手を握りしめて、十六夜を睨みつける。
「それは」
 静かに、十六夜が口を開いた。
「世界を終わりにする為さ」
 しん、と一瞬、静かに時間が止まる。
「何を……いってるんだ?」
 洋は十六夜の言葉の意味が分からなかった。
 世界とは、いまこの自分達のいる世界の事だろうか。なら、終わりにするとは? いく
ら考えても答えが出ない。
「まさか! まさかまさかまさか! 天神之清門(あまかみのせいもん)を開くつもりで
すか!? そうなんですか!?」
 結愛が慌てて声を広げる。
「ぴんぽーん! ご名答。天使を呼び出したのは、その準備に過ぎない。天神之清門を開
き、天津国(あまつくに)と中津国(なかつくに)をつなぐ。それが私の目的だ」
 十六夜は何事もないように、淡々と。静かに。告げる。
 洋には何を言っているのかわからなかったが、しかしその言葉は、結愛にはかなりの衝
撃を与えたようだった。
 結愛の顔が、ぴくっと引きつる。
「十六夜さんっ。わかってますか!? わかりますか! それはっ。それはっ。うぅぅ。
私、私、嫌です。そんなの」
 ずいぶん混乱しているらしかった。まともな言葉にいない。
「なら。力ずくでも、止めてみるんだね。出来れば、の話だけど」
 十六夜はにやりと笑い、そして術を紡ぎ始めた。
「さて、天守とは違う。地守の一族ならではの闘い方を見せてあげるよ。君達にね」
 十六夜は、懐から小太刀を取り出していた。
「巽(そん)!」
 風の術を唱えると、その力が十六夜の刀、佐助を取り囲む。
「刀はね。ただ振り払うだけが使い方じゃない」
 十六夜は、不意に刀を放り投げていた。
 佐助が風に乗り、洋めがけて飛びかかっていく!
「な!?」
 洋が慌てて力を集中する。
 ガン! と音が響く。洋の魔力が刀を弾いていた。だが。それで終わらない、刀は何度
も洋へと襲いかかっていく。刀そのものは弾いても、風の術が消えていないのだ。
「さらに。こんな使い方も出来る! 震(しん)!」
 雷の術を招来する!
 その瞬間。動き回っている刀めがけて、雷撃が降り注いでいた!
 まるで避雷針のようになって、全ての電撃が集中的に襲いかかる!
 その瞬間、洋の術の守りを越えていた。
「ぐぅわわわをぁ!?」
 洋の叫び声を大きく響く。
 刀を媒介にして、雷撃が洋を包み込んでいた。苦悶の声が、場内をこだまする。
「洋さん洋さん洋さん!」
 結愛の声。慌てて駆け寄ろうとする。
 その、瞬間だった。
「くるな!」
 洋の声が響いていた。ぴたり、と結愛の足が止まる。だが、その声は言葉にはならない
声。結愛の頭にだけ響いた声だ。
 洋は苦悶に追われながらも、強く念じていた。
 守(もり)と添(そえ)はお互いの心を通じ合わせる事が出来る。それは魂を一つに共
有しているから。
 しかし形だけの関係であれば、それはなしえない事なのだ。二人の関係が深く強く繋がっ
ている事を示しているのだから。
「でも、洋さん。私っ」
 結愛の声が小さく伝わる。口の中で呟いたような、ささやかな声で。
「十六夜から意識を移すな! 元は只人だといっても俺だって今はお前の智添なんだ。こ
れくらいじゃやられない。それより、十六夜の意識が俺に向いている間に、狙え。奴を」
 結愛に強く念じる。
 十六夜には伝わっていないはず。この狙いを阻止する事は出来ないはずだ。洋は強く思
う。
 電撃も次第に威力を失ってくる。洋には強い魔力がある。多少の怪我ならすぐに癒せる。
気に病む事はない。
「はいっ。けんだり、しんそん、かんごんこん」
 小さな声で、術を唱え始めた。
 十六夜が、顔を結愛へと向けた。


「巽(そん)!」
 綾音が風の術を招来する! 風の刃が、冴人へと幾重にも襲いかかっていく。
「震(しん)!」
 冴人が雷を呼び出していた。
 雷撃は空気を摩擦し、電気を起こす。その電気が風を拡散させていく!
「なかなかやるわね。さすがは私の智添ね」
「手加減はしませんよ。貴女相手に手加減しようもありませんがね」
 二人は互いに譲り合わず、術を交錯させていく。
 だが、そのうち一つの事実に冴人は気が付く。例え冴人が実力派とはいえ、守に添が術
で勝てるはずがない。特に綾音は天才なのだ。
 冴人が対等に戦えるはずがない。それなのに、今はその力の差を感じない。
 天使の召還に力を使ったせいもあるだろう。しかしこれはそれだけではない。
「さては、これは時間稼ぎですか」
 口の中で呟く。
「ならば。一気に形勢を変えさせてもらいますか」
 声にはせずに心の中で頷き、そして印を切り始める。
「乾・兌・離・震・巽・坎・艮・坤(けん・だ・り・しん・そん・かん・ごん・こん)。
 天沢火雷風水山地(てん・たく・か・らい・ふう・すい・さん・ち)」
「冴人!? なら……」
 大成を唱え始めた冴人に、綾音が慌てて呪を唱え始める。印を組む事はしない。綾音は
威力は落ちるものの間髪入れずに大成を唱える事が可能だ。
「八卦より選ばれしもの。互いを合わせ、更なる威を駆れ!
 雷はその身を持って震と為る! 震為雷(しんいらい)!」
「風雷益(ふうらいえき)!」
 二人の呪文が同時に完成する!
 だが、その呪文は異なる場所で発動していた。
 綾音へと向けられるかに見えた呪文。冴人はそれを発動直前に狙いを変え、解き放って
いた!
「冴人!」
 綾音が叫ぶ。
「綾音さんには悪いですが。このバランスは崩させていただきましたよ」
 冴人は、冷静に。淡々と答えていた。


 咲穂の一撃が黒蛇真教の男を両断する。
 ――するかと思えた。その瞬間。
 ガギィ! と強い音が響く。天使と闘っていたはずの阿修羅が、咲穂の物干し竿を受け
止めていた。男が呼び寄せたのか。
 そこに天使の放つ光が向かってくる!
「くぅっ!?」
 声を荒げて、物干し竿に意識を集中する。咲穂を狙っている訳ではないが、天使や阿修
羅の攻撃は桁が違う。このままでは巻き込まれる事は必須だった。
「昆(こん)!」
 山を意味する八卦を召還する。物干し竿が、小さく鈍い土色の光を放ち始める。
 しかし天使の光はその守りがないかのように、力を殺ぎ続けていた。
「ぐぉぅぅぅ!」
 咲穂が強い叫びをあげる。
 その、瞬間だった。
 巨大な雷撃と炎の固まりが、落ちていた。
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