夕架さんから頂きました!!
夕架さんの小説「学園シリーズ」の外伝ですっ。

くぅぅぅ。翼ちゃん、マジかわいっす!
ぜひ読むべしっ

夕架さん、ありがとう!!
『WING』

「………ん…」
 カーテンの隙間から差し込む朝の光の眩しさに私は夢の世界から引き戻される。
目を開けると寮の見慣れた天井。
朝日が反射して美しい。
ベッドの上にある時計に手を伸ばす。
『7:15』
大丈夫、寝坊してない。
起き上がり伸びをしているところで、バスルームのドアが開いた。
「あら、起きたのね。おはよう」
 ルームメイトの雫がタオルで濡れた髪を拭きながら部屋に入って来る。
私より、10センチほど背が高い長身、ロングヘアーの美人。
私の良き友人の一人だ。
「おはよう、バスルーム使わせてもらっていいか?」
「ええ、どうぞ」
 そう言い彼女はドアから数歩離れる。
私はタオルを用意してバスルームに入った。

 シャワーを浴びてさっぱりする。
眠気も覚めた。
今日は日曜日。
私にとって大切な用事がある日。
何日も前からこの日を心待ちにしてたんだ。
鏡に映った自分が微笑む。

 バスルームから出ると雫が髪を梳かしていた。
「また、バスタオル1枚で出て来たのね、着替えを持ってから入りなさいよ」
 う…、雫はおっとりしていて優しいんだが、こういうところが母親みたいだ。
「だって、いつも忘れるんだもん。今着替えるからいいだろ」
 私は自分のクローゼットを開ける。
何を着て行こう…。
たまには女の子らしい服がいいだろうか?
それとも、スーツ系?ボーイッシュなの?
いつもは服ごときで悩んだことなんてないが、今日は特別。
『あいつ』がどんな顔をするか楽しみで、あれこれと迷ってしまう。
「ほら、早く決めないと送れちゃうわよ?」
「そうなんだが、どれにしていいか…う〜ん…」
 結局いつものパンツスタイルに落ち着いた。
胸にはお気に入りの十字架のペンダント。
「これでいいや」
 鏡の自分に納得し、リップを塗る。
化粧まではするのが気恥ずかしいけど、この位なら…。
「もう8時半よ?いいの?」
「え!?」
 しまった、服選びに時間をかけ過ぎた!!
「食堂行って来る!」
 私は雫にそう告げると部屋を飛び出して食堂に向かった。
急いで食べて9時に寮を出る。
うん、大丈夫、これなら間に合う。


 食堂に着くと、いつものメンバーがいつもの席についていた。
いつものメンバーとは、幼馴染の隼人、友人の皇希、皇希の双子の弟で、この学校の生徒
会長である夕希、副会長の大樹である。
他の友人達はまだ眠っているのか、姿は見えない。
「おっはよ〜!!翼vv翼が来るまで待ってた!!」
 私に気づくが早いか隼人が飛び掛ってくる。
「今日はそれどころじゃないんだ!早く食べなきゃ!!」
 私は悪いと思いつつ飛び掛って来る隼人をベチンと叩き落とすと食券を買いに走った。

「何だ?どっか行くのか?なんかお洒落してないか?」
 モーニングセットのボタンを押していると皇希が背後から声をかけてくる。
彼も隼人と同じく私が来るまで朝食を摂らずに待っていたらしい。
皇希はハーフらしく、ブルーの瞳が印象的だ。
きっちりしたYシャツ姿の夕希と反対にラフな服を着崩している。
「そう、出かけるんだ」
 私はそれだけ言うと食券を持ってカウンターへと急いだ。

「そんなに慌てて何処に行くんだ?」
「俺も行っちゃダメ?」
 皇希が自分の朝食には手もつけず尋ねてくる。
つづいて隼人はパンをもう食べ終わり身を乗り出して聞いてくる。
「行くのは空港。ストーカーしたら殺す」
 短く言って朝食をさっさと詰め込む。
「……男だね」
 それまで優雅にお茶を飲んでいた夕希が口を開いた。
まあ、当たってるな。
だけど私はそれどころじゃなく、食べるのに忙しくて答えないでいた。
「何!?」
「誰誰誰!!」
 あー、煩い。
皇希と隼人が誰だ、何処で知り合ったなど口々に聞いてくる。
「煩い!!無礼者!!じゃ、私はもう行くから」
 私は立ち上がりトレーと食器を素早く片付けに向った。
「無礼者ーーーっ!!それは僕の台詞だーーーーっ!!」
 背後で夕希が叫ぶのが聞こえる。
他にも隼人達が何か騒いでいたが無視して私は食堂を出た。
『あいつ』とお揃いの愛用の腕時計に目をやる。
ジャスト9時!
急がなきゃ!!



 走って学校の敷地を出て、バス停に直行。
時間通りのバスに乗る。
駅前で下りて電車に乗り換え……ん?
改札口で私は一瞬立ち止まる。
何か変なものが視界に入った気がしたのだ。
休日出勤のサラリーマン、OL、家族、カップル…。
様々な人々が行き交っている。
「気のせいか…」
 口に出して私は呟き、改札を抜けた。


電車の窓を見ると景色がどんどん過ぎて行く。
学園は比較的、田舎にあるので緑が多い。
青い空に緑の山々、もう少し乗れば景色は変わり立ち並ぶビルが見えてくるだろう。
いつも眺める景色なのに、今日は一段と綺麗に見える。
「………?」
 ざわざわとざわめく電車の車内。
私はゆっくりと辺りを眺めた。
視線を感じたのだ。
今日は休日のせいか、それほど混雑していない。
私はドアの所にもたれて立っているが、席は疎らに空いている。
遊びに行くのだろう数人の子供がリュックを背負って騒いでいる。
女子高生は堂々と席を陣取り化粧をしている…非常識だな。
抱き合っていちゃついてるカップルがいるがそれはあまり見ない方がいいな。
…ふむ、別段変わったところはない。
もしかして私は変な格好をしているのだろうか?
窓に写った姿を確認するがおかしなところは見当たらない。
「…?」
 いや、気のせいじゃない。
また視線を感じた。
それもかなり熱い視線。
私は気づかないフリをして窓に写る車内を見た。
「………」
 ……どうやら視線の主はあのカップルのようなのだが、知らない人達だよな?
私、別に何か恨みを買うような真似もしてないし。
時計を見るとまだ充分に時間があった。


 電車が止まり、私は降りる。
目的地ではないが、次の電車に乗ればいい。
「……」
 やはりカップルも降りて来た。
男の方は黒いスーツを着てサングラスをかけている。
どっかの組の人のようだ。
あまり近寄りたくないタイプだな。
女の方はロングヘアで黒のスーツドレス。
随分な美人だ。
でも、そんな知り合いはいない。
私は早足で階段を下り、下りたところで横に隠れる。

二人が後から下りて来てキョロキョロ周りを見ている。
やはり私を探してる?
私は二人の背後にそっと近づいた。
ヤのつく名前の職業の人だろうが、気にしない。
人を付け回すから悪い。
武術には自信もあったし思い切って声をかけてみることにした。

「誰を探しているんですか?」
『!!!???』
 思いっきり動揺している。
硬直しているみたいで、顔が見えない。
仕方なく私が前に回り込むと顔を背ける。
「………ん?」
 こいつ…、私は無造作に男のサングラスを取り払った。
「……皇希……」
 眩暈がした。
ってことはこっちの女は?
頭を掴んで振り向かせると髪が取れた……いや、カツラか。
「…………隼人〜…」
 私はどうにか声を搾り出してその場にしゃがみ込んだ。
「え、ええと。その、ほら!!翼が心配だったんだよーー!!影ながら見守ろうと…」
「あ、ああ。危なくなったら助けに行こうと思ってな」
 二人がごちゃごちゃと言い訳をし出す。
普段、仲が悪いくせにこういう時だけチームワーク(?)を発揮するんだな…。
「……ストーカーしたら殺すって言わなかったか?」
 私は暗い瞳でしゃがんだまま二人を見上げた。
「あ!!お、俺…急用が!!」
「お、俺も!!」
 二人は私の瞳に余程恐怖したのか、引きつり笑いをしながら去って行った。
これで、ようやく目的地に向える。
私は再び電車に乗り込んだ。





「ごめん!!待った?」
 空港に着き、目的の人物がすでに来ていることに気づく。
私は彼の元へ急いで駆け寄リ、思い切り抱きついた。
しばらく彼の体温に身を任せていたが顔を上げて二人で微笑む。
「久しぶり!!」
「久しぶり!!」
 声が見事に重なる。
無造作に切りそろえた長めの髪。
右耳には二つのピアス。
左耳にはカフスと私と一つずつ分けた十字架のピアスをしている。
瞳は私と同じ黒い色。
改めて、彼の姿を確認して再び私は抱きついた。
二人でいる時が何より落ち着く。
小さい頃からずっと一緒だった。
私の片割れ。
双子の弟。


「向こうの暮らしはどうだ?」
 ファーストフード店に入り向かい合って座る。
「たいしてこっちと変わんねーよ」
 弟――戒は高校から海外に留学していた。
長い休みには帰ってくるのだが、忙しいらしく帰って来ても数日でまた行ってしまう。
何か将来やりたいことがあるらしく、必死で勉強しているらしい。
「いつまでこっちに居られるんだ?」
「俺は連休だけど、今日の最終便で行くよ」
 戒は必ず、向こうには「行く」と言い、私の居る場所には「帰る」という言葉を使う。
無意識なのかどうかは解らないが、嬉しいと思う。

 映画を観て、ゲームセンターへ行ってカラオケして…。
あっという間に一日が終る。
「それじゃあ、またな。…気をつけて」
 空港でいつもの別れの言葉。
「姉貴も気をつけて帰れよ……っていうか、姉貴なんか襲ったら犯人の方が危険だな」
「どういう意味だ!!」
「そのままの意味。………じゃーな、また近いうちに帰って来る」
 お互いの頬に軽いキスを交わす。
小さい頃の母親の挨拶の癖がそのまま私達に残っている。
そのまま言葉も交わさず戒は後ろを向いたまま手を振って去って行った。

 

 飛行機が飛び去った後、私はぼんやり空を眺めた。
祭りの後のような気分。
寂しいような、切ないような…こういう感じは好きじゃない。
星が綺麗に瞬いている。
さ、寮に帰ろうかな…。
仲間達の騒ぐ姿を思い浮かべて、私は夜の道を駅に向って歩き出した。

END
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